ボーカルのブレス(息継ぎ)音

21世紀以降ぐらいからだか、スタジオレコーディングされたボーカルにはっきりとブレス音が聞き取れるものが増えてきたように思う。

平原綾香や平井賢あたりから目立ってきたように思うのだが、僕が最初に意識したのはPerfumeのBaby Cruising Loveである。この曲には部屋のスピーカで大音量で聞くと頭が吸い込まれるのではないかと思うほどのブレス音が頭に入っている。

ブレス音でググってみると、この音について否定的な人の多さに驚かされる。曰く

  • 美空ひばりはブレス音が全く聞こえなかった
  • ブレス音が大きいのはブレスが下手ということ
  • きちんと訓練された歌手はブレス音を出さない

とまぁおおむねこのような論調になるのである。

昭和以前にはまぁこのようなこともあったのかも知れないが、今だにこのようなことを言うのはちょっとどうかと思う。

現在のスタジオレコーディングされたCDに入っているブレス音は、すべて意図的に「録音され」て「入れられた」か「残された」ものである。

割と最近のレコーディングでは、西野カナの「Daring」がわかりやすい。

このアルバムに入っている3曲で、表題曲の「Daring」ははっきりとブレス音が残るようにレコーディング、マスタリングされている。

二曲目の「LOVE & JOY」は、まったくブレス音が聞こえないが、三曲目の「Still love you」は少しだけ聞こえる、というような構成になっている。

ブレス音がCDに入っているかどうかというのは、歌手の技量とは全く関係なくレコーディングとマスタリングのプロセスの中で音楽的演出を考えて取捨選択されているだけなのである。

昔はテープの編集で音楽を作っていて、ブレスの音を捨てるのは大変な作業だったので、最初からブレス音がマイクに入らないようにしたりそもそもブレス音が出ないように訓練された歌手がありがたがられていただけなのである。

すべてがデジタルレコーディングされている現在ではブレス音も含めてすべて録音してしまって、後で不要なものを削除していく方がよほど効率がいいので歌手はブレス音をあえて消す努力をする必要がないというか、意図的にブレス音を残すような歌い方をしているのである。

もちろん聴く側にしてみれば、ブレス音がうっとおしいと思うのは自由である。ただそれも含めて音楽を作る側の意図なので、嫌いならそれでしょうがないというだけのことなのだ。「Baby Cruising Love」の最後に入るブレス音は、肉体的には必要がないものなので、後で足しているのではないかとさえ思われる。無論それも音楽なのだ。

ブレス音を意識的に残すという音楽的演出はだいぶ前からあったものだが、今になってボーカロイドとの差別化になっているところがちょっと面白い。もちろんボーカロイドの声に後でブレス音を足すことはできるのだが、こんなところで「引き算で音楽を作る」ことと「足し算で音楽を作る」lことの違いを感じることができる。

このブレス音は、フルートソロのCDでも残されているものと消されている(もしくは入らないような配慮のもとでレコーディングされている)ものがある。もちろんもともとブレス音が小さいフルーティストもかなりな割合でいると思うが。

しかしこのブレス音ごときで「気になる」とか言っていたら、ピアノ弾いている間ウーウー唸っているようなピアニストのCDなど絶対聴けないのではないかと思う。まぁ嫌いなら嫌いでしょうがないけど、そんなことでグレン・グールドのゴルトベルグ変奏曲を聴かずに死ぬのはちょっともったいないと思うぞ。

ボーカルのブレス(息継ぎ)音」への8件のフィードバック

  1. ブレスの有無についての最近の風潮についてはよく分かったけど、後からブレスを足すという行為はなんか気に入らないかな
    それだとライブとレコーディングとで音が変わってきて、レコーディングの曲が好きだからライブに行ったらブレスが無くて困惑するかな
    つまりライブで歌ってる本人は素材でしかなくて、レコーディング後の加工物が本物。
    極論すると、本人の唄は偽者あるいは加工が必要な未完成品となるので。
    例えると、写真写りがいいけど本物はブスで、フォトショップでバリバリ加工してた、って感じかな。

    • Perfumeなんかはいい例なんじゃないかと思いますが、彼女たちは確かライブでは口パクしてると公言してますよね。ライブというものの意味自体、Pefrume(とその周辺の人たち)はだいぶ変えてしまった感じがするので、それはそれでいいんじゃないでしょうか。
      西野カナの「Unplugged」ライブはソフト化されてて、聞くとブレス音がちゃんと入っています。

  2. 追加すると、上記であげたような歌手は、ライブしなければ問題ないかと思ってる。
    ただ、ライブでも通用する歌手と、CDとかでしか露出しない歌手とを比較すると前者のほうをより優れた歌手と自分は思う。

    天然の魚と養殖の魚、あるいは生では食べられないけどかまぼことか干物にすれば美味しい魚との、どっちが好きかってこと。

    • そもそもCDとライブは全く別の表現で、同じものを求めるのもちょっと違うかな、という気がします。
      かまぼこでいつも美味しく食べてる魚を、塩焼で食べてみたらそれも美味しかった、というぐらいのものかもしれません。
      CDでエフェクトしまくってるからと言って、それが「生声が聞けたもんじゃないから」に直結するわけでもないでしょうし。
      Perfumeは中田ヤスタカと組み始めた頃、声が加工されてるのが最初はとても嫌だったと言ってたと記憶しています。

  3. >しかしこのブレス音ごときで「気になる」とか言っていたら

    気になる人は貴方より繊細な感性を持っているだけでしょ。
    だいたいブレス音なしで歌える人だっているんだから。

    • 伝わらないもんですね…
      ブレス音なしで歌えることに今は大きな価値はないし、わざと入れる(残す)ケースも多いと書いているんですよ。
      結局のところ「気になる/ならない」ではなくて「好きか/嫌いか」ですかね。

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